6月24日(土)に天文館図書館の交流スペースで読書会を行いました。
課題本は南綾子さんの『死にたいって誰かに話したかった』(双葉文庫)。
5月に開催したビブリオバトルのチャンプ本です。
読書会とても楽しかったのでレポを書き記したいと思います。
ネタバレがありますのでご注意ください。それと読書会後に私の頭で整理された内容になるので、実際の読書会での発言と異なる場合があります。ご了承の上でご笑覧いただけたら幸いです。
◆ではまず簡単に小説のあらすじを説明します。
仕事もできず、恋人もできず、友達もいない奈月。
母親から再婚で家を出ると連絡が来て、引きこもりの兄の世話のために実家一戸建てでの生活が始まる。何もかも上手くいかず生きづらさを感じるなか、悩みを打ち明ける場所が欲しいと「生きづらさを克服しようの会(略称:生きづら会)」の設立を思い立つ。仲間集めにチラシを作ると、モテなさすぎて辛いと話す悠太から参加希望の連絡が来る。実家から追い出されて住む場所もない悠太を、家事全版してもらうのと生きづら会の参加を条件にシェアハウスをしないかと提案。3人の共同生活が始まる。悠太のほか、病院で不倫を行い家族と別居生活中の奈月の従兄弟・薫やエリート会社員の夫を持つマウントを取りたがる薫の妻の友人・茜が生きづら会に加わり共同生活をするようになる。悩みを話すことで果たして問題は解決するのか?というストーリー。
◆さて、参加者の方々の感想は以下のような感じでした。
・普段は手に取らないタイプの本。「生きづら会」に関して、人に話をすることで頭の中のモヤモヤが整理ができたり、知識ではなく自分の経験をもとに話をしていくのは「哲学対話」に似ているなと思った。小説の登場人物たちが抱えている「生きづらさ」は明確な形を持っているが、読み進めていくうちに明確な形ではないけれども自分もそれに近い「生きづらさ」があるかもしれないと思うようになった。
・書名からシリアスな内容を想像したが、哲学対話のように自身の体験を少し抽象的に語るのであまり深刻に受け止めずに読み進められた。登場人物たちに自分と似た部分があり共感した。特に奈月に自分は似ているかもしれない。「生きづらさを克服する会」に参加していたら自分はどんなことを話すかなと想像のも面白かった。
・トラウマがなくても生きづらさはあると思う。作品内で出てきた「“理想の結婚相手の条件を上から順に四つあげなさい」という心理テスト。自分もフリーペーパーで見たことを覚えている。作者と年齢も近いので、作者もそのフリーペーパーを見て記憶に残ったのかが気になった。
・自分たちの日常に近い、視点の低い小説だと思う。奈月が、自分は同姓と共有できるものが少なく、シスターフッドの物語の一部に自分はなれないだろうと言う。集団や連帯の輪に入れないはみ出てしまう人々を文学は今後どのように描くのかという点も気になった。奈月はいつも不味そうにご飯を食べる。「生きづら会」で奈月が自分の悩みを語った時、空腹になって初めてご飯を美味しそうに食べるシーンが好き。
・登場人物たちみんな嘘をついていると思った。嘘が絶対悪いということではなく、「生きづら会」での語りは現実に起こったこと(経験)だけを話しているわけではないんじゃないか。それと基本的に問題が解決する話にはなっていない。唯一、薫だけは前進しているように見えるが、本当に問題は解決したのかは気になった。
・深い作品だなと思った。最近の小説だと理由もなく不当な扱いをされることが多い気がするけど、この小説では不当に扱われる理由があるのが新鮮だった。奈月はよく挨拶していて他人によく見られたいというのもあるかもしれないが、自分の緊張を和らげるためにしている面もある気がする。書名からシリアスな内容を想像してたが、あまり深刻にならないというか、安心して読み進められた。「安心させられる」ことに、登場人物たちが比較的良いお家で育っていることが関係しているかもしれないと思った。
※この安心して読めた理由について語られた方と、読書会が終わった後に当店で話をしました。ご本人は読書会で話した後に、「安心させられた」のは家のことが理由ではなく、読書会の中でも語られたような「哲学対話」的なものが理由かもしれないと考え直したとおっしゃっていました。これは登場人物たちが「嘘」をついているという読書会の中での指摘と関連していると思います。読書会での語りもそうだと私は思いますが、このような場での語りは、語り手の内面が「そのまま」語られる訳ではないです。他人を傷つけないような言葉を選んでいるし、それは自分を傷つけないように言葉を選んでいるとも言えます。自分にまつわることを語っているんだけど、内面で生じていることとは異なる仕方で物事を受け取ることができる。そういう語り口が安心感を与えているのかもしれないですねと話しました。
・自分もよくやらかす人間なので、登場人物たちに共感することが多かった。自分と登場人物たちに共通点があるとしたら何だろう?と考えたら、それは「現実が怖い」ということかなと思った。そこには自分にとって都合の悪い現実があるので、直視したり引き受けたりすることは自分が傷つくことでもあると思う。それは自分の理想や可能性を諦めることでもあるけれど、都合の悪い現実をどうしたら引き受けられるかを描いた物語かなと。ただ一方で、どうしても受け入れらない、理不尽でしかない現実もあって、これは茜のトラウマでもあるけど、そういう現実との付き合い方も描いていると思う。「現実」をテーマにした小説だと思った。
※私の感想です。
◆この後フリートークに移りました。
・茜の転落はどうしたら未然に防げたのか?
高校からの友人・今日子(薫の妻)がいて、茜は自分のトラウマについて今日子に話している。そういう長い付き合いの友人がいても生きづらさが出てしまうのはなぜか?
→人間どうしても孤独を感じてしまう瞬間があり、それは家族や友人がいてもそうなのだと思います。孤独について考えることが転落を未然に防ぐことにつながると個人的には思うところですが、答えは出ませんでした。
・ラストシーンの茜が徹に話しかける場面。茜の自己投影の入った言葉かもしれない。生きづらさはなくならないけど、少し前向きに思えるラストシーン。
・共同生活が苦手そうな人たちだけど上手くいっているのはなぜか?
→家族や会社だと役割を押し付けられるけど、「〜すべき」が押し付けられない場所だからではないか?そしてそれぞれの性格が上手くハマった結果なのかもしれない。
・「生きづら会」は参加する人が増えていくけど、会を崩壊させそうな人は誘わないというか、人を選んでいるのが面白い。会を続けたいという意志が垣間見えるのと、登場人物たちの成長も窺える。
・奈月も「女性」であることに拘っているし、悠太も薫も「男性」であることに拘っていて、感情移入しやすいキャラクターとして配置されているようにも見える。終盤への茜や徹の(ジェンダーへのこだわりとは異なる)話をするための物語の構造になっているかもしれない。
・徹はなぜ外に出ようと思ったのか?「生きづら会」の様子を見聞きしていたのか?
→ここは答えが出ませんでした。読んでわかる方いれば教えていただきたいです。
・現実にいる「奈月」のような人とどう接するか問題。
→これも答えが出ず。
◆だいたい以上のような内容でした。
課題本を読み終えた時は、正直読書会どうなるかなと少し心配になりました。
良い小説で自分なりに感じることは多いけれども何を語ったらいいのかが難しいなと率直に思いました。
それは参加者の方々もそうだったのではないかと思います。
でも、実際に読書会が始まって語り出してみると、色々と出てくるものも多いし、他人の発言に触発されて考えが進んだりもして、とても楽しい時間になりました。
小説自体も現代的な問題や課題がかなり詰め込まれた作品だなと大変興味深く読みました。
ぜひ多くの方に読んでいただきたいので新刊本で仕入れて販売したいと思います。
参加者のほぼ全員が言っていましたが自発的に手に取ることがないであろう本でしたので、ビブリオバトルで紹介してくださった「鹿児島でビブリオバトルをする男」こと峯苫さんに厚く感謝申し上げたいと思います。
峯苫さん、参加者の皆様、楽しい時間をありがとうございました!
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