ナマイキVOICEで紹介した本

12/22(土)放送のナマイキVOICEで本の紹介をしました。
紹介したのは、酒井順子さんの『地震と独身』というエッセイ本です。
以前、紹介文(というより本の感想)を書いたことがあります。せっかくなので少し手を加えて載せます。
ご笑覧いただけると嬉しいです。 

書名の「地震」が何を指すのかというと、7年前に起こった東日本大震災のことです。
未曾有の自然災害が起きた時、その身で体験した人々の姿をたくさんのメディアが報じました。特に「家族」にまつわる物語が多く報じられました。身内を失った人の悲しみ、あるいは生きている姿で戻って来たことを祝う姿。それはどちらも重い出来事であり、それに向き合わざるをえない人の姿は尊いものだと思います。私はその光景に疑問を抱くことはありませんでした。

しかし、この本の著者の頭の中ではふと疑問が生じます。震災で家族の物語がたくさん報じられたけれども、そこには「独身」の姿はない。さて、その時「独身」の人々は何処で何をしていたのだろうか?と。それは著者自身が独身であることから生じた理由でもありますが、そこから独身の人々への著者の取材が始まります。『地震と独身』は、その取材で出会った人々の語りが綴られた本です。

この本の中には様々な人が登場します。地震が起こった時、独りぼっちで人とつながりたいと思った人。会社の同僚が家族のために必死に動く姿を見て、むしろ自分は独身で良かったなと安堵した人。インフラに関わる会社だったため家にも帰れず一生懸命働いた人。自宅から離れた場所で被災し、長年飼っている愛猫のためになんとか家へと戻ろうとした人。震災をきっかけに結婚した人。逆に、別れることになった人。

私が特に興味を惹かれたのは、その当時は交際している相手がいたけれども、被災した故郷に帰るために別れる決断をした人たちです。その人たちには交際相手と別れてでも戻らなければならない理由がありました。「今」戻らなければその理由を形作っているものが嘘になってしまうような感覚があったのかもしれません。失いたくないもののために決断を下さなければならない時というのが人生にはあるんだろうなと、この本を読んで私は考えました。その失いたくないものというのはたぶん、ある人には恋人や家族といった他者に関係しているし、ある人にとってはむしろ一人(独身)でないと実行できないことに関わっていて、どの人もその人自身のそれを守るために、あのとき動いたのだと思います。どんな決断であれ、個々人が抱え持っている理由がちゃんと背後にあるんだということが伝わってくる、そんな一冊でした。

ブックスパーチに一冊だけ商品として置いています。よかったら手に取ってみてください。

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