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【今週の1冊】
『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』山本貴光+吉川浩満(筑摩書房) ※8/9(月)新刊本で在庫有り
「人々を不安にするものは事柄ではなくして、事柄に関する考えである。」byエピクテトス
1900年前の古代ローマの哲学者・エピクテトス。
その哲学は現代に至るまで様々な人に影響を与えてきた。
日本人なら夏目漱石もその一人で、代表作『吾輩は猫である』に登場する苦沙味先生もエピクテトスの本を読んでいる描写がある(らしい)。
エピクテトスの哲学とはどのようなものでその魅力とは何なのか。
山本貴光さんと吉川浩満さんの二人が会話形式でわかりやすく紹介するのが本書だ。
二人に言わせると、エピクテトスの哲学は元祖自己啓発と言ってもいいそうだ。
誰しもが抱える人生における悩み、それを減らすにはどうしたらいいのか?
エピクテトスの考えでは、人の悩みは「権内」と「権外」の混同によって起こるという。
「権内」は自分のコントロールできる範囲内にあるもののこと。
「権外」は自分のコントロールできる範囲外にあるもののことだ。
事故や故障で電車が止まった時に駅員に喚き立てる人が例に挙げられている。
駅員にいくら喚いたところで事態が改善するわけではない。(権外)
もしその人にできることがあるとすれば、遅れることを上司や取引先に連絡することくらいだろう。(権内)
一見、自分に出来ないことについて考えたり煩わされないように諦めることが大事だとエピクテトスは言っているのかなとも思ったのだが、どうもそういうわけではないらしい。
山本貴光さんの言葉がそれを端的に表しているので下に引く。
「山本 エピクテトスの哲学には、「君にはいったいなにができるのか」という根本的な問いを、その人となりに合わせて立てることを教えてくれるようなところがあるからね。」(P17)
エピクテトスは悩みやモヤモヤが生じること自体を否定しているわけではない。
むしろ、その悩みやモヤモヤが、自分の「権内」なのか「権外」なのかとその都度区別して考えることが大事だという。その経験が自分の「理性」を作り上げることになる。またその区別をすることによって自分の「権内」に集中することが可能になる。このことが重要なのだ。
もう一つ本書において興味深いのは、エピクテトスの哲学に出会ったおかげで「正気を保つことができた」という言葉が何度か出てくることだ。それはこの本の著者二人もそうであるし、エピクテトスの哲学の影響を受けた哲学者や精神科医なども各々の本で述べている。
当たり前と言えば当たり前の話だが、自分自身の正気を保つには、自分自身の力が必要で、他の誰がしてくれるわけではない。
自分の「権内」を見つけてそれに取り組むことは、自分の正気を保つことに繋がるのではないかと本書を読みながら想像した。
自然災害から実社会に至るまで、生活や社会は今後もより複雑になっていき、人の悩みは尽きないと思う。
悩みやモヤモヤが止まらなくなった時におすすめしたい1冊。
【関連しておすすめしたい本】
・『人生談義 上下巻』エピクテトス/國方栄二訳(岩波書店) ※8/9(月)新刊本で在庫有り
→エピクテトス自身が著した本はないそうだが、その弟子が覚書したノートが本になり残ったのがこの本。様々な人々の人生相談にエピクテトスが答えていく。古代ローマの人々がどのような悩みを抱えていたのかを知れるのも面白いし、具体的な事例に則してエピクテトスがどのように答えていくかも面白い。
・『勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版』千葉雅也(文藝春秋) ※8/9(月)新刊本で在庫有り
→『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』の中だったかそれ以外の場であったかは忘れてしまったが、山本貴光さんと吉川浩満さんが自分の「権内」を拡張するのには勉強がその一つの手段だと言っていたのが印象深かったので、今回の関連で千葉雅也さんの『勉強の哲学』をおすすめしたい。
情報過多な現代社会において自分の「勉強」を進めるにはどうしたらいいのか?
そして自分の思考をより深めるにはどうすればいいか?
勉強の理論であると同時に具体的な実践の書でもある。
まだ何なのかは分からないけど、何かの勉強を始めてみたいという欲求がある人にも答えてくれる本だと思う。
何かを始めてみたいと思っている人におすすめしたい1冊。
・『独学大全』読書猿(ダイヤモンド社) ※8/9(月)新刊本で在庫有り
→書名通り独学する上でのあれこれやこれでもかと詰まった1冊。(752ページ)
勉強のための時間や環境、資料集めに読み方まで、独学に関わるあらゆることを網羅している。
個人的に何よりいいなと思ったポイントは、独学する上で一番重要なのはモチベーションであり、それを保つにはどのような方法があるかを吟味しているところだ。
勉強をしたいけど上手くやれずにいるという方は手元にあると役立つはず。
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